「日記帳 江戸川乱歩」読書の記憶(六十一冊目)
もしも、それが世界に存在しないくらいに、
ありえない程の、完璧な文章でも。
ありえない程の、完璧な文章でも。
りかいしてもらえなければ、
がんばりは、すべて無に帰するわけで。
ときには単純でもいいから、
うつくしくなくとも、シンプルに伝えたい。
江戸川乱歩の「日記帳」には、暗号を使って気になる女性にメッセージを送り続けた人物(主人公の弟)が登場する。しかしながら、暗号は相手に「それを解く素養」があってこそ成立するわけで、凝った暗号になればなるほど届かなくなる危険性も起こり得る。時間をかけて、念入りに考えて送り続けたメッセージも、それを読み解いてもらえなければ「伝えていない」ことになってしまうのだ。そして「わかってほしい人」に読み解いてもらえず「わかってほしくない人」に読み取られてしまうこともまた、悲劇だろう。
「生れつき非常なはにかみ屋で、臆病者で、それでいてかなり自尊心の強かった彼は、恋する場合にも、先ず拒絶された時の恥かしさを想像したに相違ありません。(日記帳より)」