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「漱石と倫敦ミイラ殺人事件 島田荘司」読書の記憶(九十六冊目)

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大学生だった頃の話。漱石の「永日小品」を読んでいた時、僕の目はある一文に釘付けになった。   「いつかベーカーストリートで先生に出合った時には、鞭を忘れた御者かと思った」 (永日小品 夏目漱石より)   「ベーカーストリート!? シャーロックホームズじゃないか!」 資料を調べてみると、漱石が個人授業を依頼して通っていたクレイグ先生の家は、ベイカー街の一本隣の道にあった。漱石はクレイグ先生の家に向かう際に、ベイカー街を歩いていたのだった。 さらに面白いことに、漱石が英国留学に出発したのは1900年の9月。シャーロックホームズが活躍していた時期とも一致する。もしかして、漱石はベイカー街でホームズとすれ違っていたのかもしれない……。もちろん実在の人物(漱石)と架空の人物(ホームズ)が出会うなんて、ありえない。そのくらいのことは、いくらなんでも自覚している。 それでも、場所と時代がここまで一致してしまうと想像が広がってしまうのは致し方ない。いつの日か、ロンドンを訪問する機会があれば、漱石とホームズの事を思い浮かべながらベイカー街を歩いてみたい。そんなことを考えているうちに、予想以上に時間が過ぎてしまっていた。 今のところ、イギリスへ行く予定はない。それでも旅に出かける時は、いつだって急に決まることが多いので、旅立ちの心構えだけはしておこうと考えている。 島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」 島田荘司氏の「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」は、ロンドン留学中の漱石とホームズ、そしてワトソンが出会い、事件を解決するという設定の作品である。  「失礼しましたナツミさん、何かお困りのことでもありましたか? ずいぶん遅くまで読書や書き物をなさるようですが、そのこと関連のあることですかしら」  ホームズがいきなりそう言ったので、日本人はひどく驚いた様子である。  「どこかで私のことをお聞き及びですか」 (漱石と倫敦ミイラ殺人事件 島田荘司より) 先日、ひさしぶりに「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」を読み返してみた。漱石とホームズ、そしてワトソンが会話をしている情景が、最初に読んだ時よりもリアルに頭の中に浮かんできた。漱石は戸惑い、ワトソンは親身でやさしく、ホームズは猛然と馬車を走らせる。たぶん、三人はあの時のあの場所で出会っていたに違いない。