「猫の事務所 宮沢賢治」読書の記憶(七十三冊目)
小学四年生の時の話。国語の時間だった。担任のS先生が、教科書に掲載されている小説の一段落を読み上げた。そしてその中の一文を黒板に書くと「ここで作者は何を表現したかったと思いますか?」と、僕たちに質問をした。
何人かが答えた後、僕も指名された。僕は「作者は『動物達が踊っているように見えた』と言いたかったのだと思います」と答えた。先生は「あー、そう。次、〇〇さん」というように、特に良いとも悪いともなく授業は進み、次に当てられた生徒が答えたところで、その日の国語の授業は終わりになった。
数日後の国語の時間。S先生は前回と同じ部分を読むと「ここで作者は何を表現したかったと思いますか?」と質問をした。僕は(この前の授業で自分の感想は言ったから、今回はいいだろう)と手を上げずに黙っていることにした。するとT君が、すっ、と手を上げるのが見えた。そして「作者には、動物たちが踊っているように見えたのだと思います」と言った。そう、前回僕が言った内容と同じ事を繰り返したのだった。
ところが先生の反応は、僕の時の「それ」とは違っていた。先生は「おお!それは、なかなか面白い読み方だね。うん、面白い!」とT君の感想を絶賛した。僕は、あれ? と思った。小学四年生の僕でも明らかにわかるほど、S先生の反応は僕の時の「それ」とは何かが決定的に異なっていたのだ。
僕は「前回、僕も同じことを言ったよ!」と主張しようと思いながらも、そのまま黙っていた。小学生の僕の頭の中には、悲しみとも怒りとも表現できないような感情が渦巻いていて、どうすればよいのかわからなかった。先生は黒板に「動物達が、踊っているように見えた」と大きく書いた。そして、これはいいなあ、とまたT君を褒めた。
その時だった。クラスの中でも元気な女子の一人が「それって、このまえ佐藤君も同じことを言ってたよ」と先生に向かって言った。そして僕に「そうだよね」と同意を求めてきた。僕は、うん、とうなづいた。先生は、そうか? と僕に背を向けたまま言った。
その時だった。クラスの中でも元気な女子の一人が「それって、このまえ佐藤君も同じことを言ってたよ」と先生に向かって言った。そして僕に「そうだよね」と同意を求めてきた。僕は、うん、とうなづいた。先生は、そうか? と僕に背を向けたまま言った。
猫の事務所 宮沢賢治
「パン、ポラリス、南極探険の帰途、ヤツプ島沖にて死亡、
宮沢賢治の「猫の事務所」を読んだ時、ここに書いたことを思い出した。今考えてみると、僕はS先生にあまり良く思われてなかったのかもしれない。T君は、あまり積極的に授業に参加するタイプの生徒ではなかったから「T君が感想を言った」ことに対して、先生は嬉しく思ったのかもしれない。今となってはよくわからない。
それでも、クラスの女子が指摘してくれた事はうれしかったし、一人でも自分の味方に立ってくれる人がいるということで、もう充分だと思ったことを覚えている。
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