「葉 太宰治」読書の記憶(八十五冊目)


背が高い人は、他の人よりも頭を下げなければいけない



小学六年生の時の話。僕たちは、体育館で卒業式の予行練習をしていた。全員で椅子から立ち上がり、正面に向かって一礼した時だった。ある先生が、僕のところにやってきて背中をトントンと叩いて言った。


 「あんた、背が大きいのだから、他の人よりも深く頭を下げないとダメなんだよ」 


その当時の僕は、わりと身長が高い方だった。たしか、学年で三番目くらいの身長だったと思う。いや五番目だったかもしれない。とにかくその先生は、僕の頭を下げる角度が浅いので「遠くから見ると、あんたの頭だけが上に飛び出ているように見えた」と注意にやってきたのだった。


僕は、その先生の前で立ったまま一礼を繰り返した。地面に向かって90度というよりは、135度よりも深く。先生から「良し」をもらうには、自分が想像していたよりも、ずっとずっと深く頭を下げなければいけなかった。  


「背が高いと偉そうに見えるから、他の人よりも頭を下げないといけないんだよ」


それ以来僕は、自分の身長を気にするようになった。背が高いと偉そうに見える。先生に注意される原因にもなる。できるだけ頭を下げて、目立たないようにしなければならない。自分が思っているよりも、深く深く頭を下げなければいけない。背が高いということは、色々と周囲に気を配らなければいけない。小学校の時の僕は、そう体験から学んだのだった。



お前はきりょうがわるいから、愛嬌だけでもよくなさい 。
太宰治「葉」より


太宰治の「葉」を読んだ時にこの時のことを思い出した。僕が少し猫背気味なのは、あの時先生に注意されたことが原因なのかも、しれなく、もない。


太宰治   人間失格 思ひ出 富嶽百景 トカトントン 皮膚と心 I can speak  一問一答 兄たち  同じ星

このブログの人気の投稿

「同じ本を二冊買ってしまった時に、考えたこと」読書の記憶 五十八冊目

「性に眼覚める頃 室生犀星」読書の記憶(九十五冊目)

「厠のいろいろ 谷崎潤一郎」読書の記憶(九十四冊目)