「皮膚と心 太宰治」読書の記憶(六十冊目)



ジョギングをした後に、シャワーを浴びて服を着替えていたところ、首のあたりが赤くなっていることに気がついた。なんとなく痒みもある。走って赤くなっただけなのか? 首に巻いたタオルに何かついていたのか? じんましんなのか?

よくわからなかったが、さほど気にすることもないだろう、と思いその日は寝てしまった。翌日目が覚めてみると、やはり赤い。痒みもある。しかしそこまで酷くもないようなので、放置したまま仕事へ出かけることにした。

帰宅してみると、やはり赤い。痒みも治る気配がない。この時になってようやく「これは何か対応が必要ではないか」と考えるようになった。しかし明日も予定はあるし、明後日は土曜日だから病院は休みだろう。もしもこのまま悪化したとしても、病院に行くのは月曜日になる。そう考えると、にわかに焦りが芽生えてきた。何か自分で対処しておかなければ、と考えた。が、しかし、もともとが乱暴な性格なので「今日はこのまま寝て、明日も回復していなかったら考えよう」と、その日は寝てしまった。

翌日の朝、やはり回復している気配はなかった。赤みも痒みもある。二日過ぎても回復しないということは、このまましばらくはこの状態が続くのではないか? と、さすがに不安がよぎる。まずはできることをやろう、と移動の途中に薬局に立ち寄り、白衣を着た店員さんに相談して塗り薬を買った。さっそく塗ってみた。一時間もすると、だいぶ痒みが治まってきた。薬というのはすごいものだ、と思った。


ふと太宰治の「皮膚と心」を思い出した。読み返してみると、湿疹に悩まされる主人公の夫の職業は「デザイナー」であることに気がついた。

「図案工なんて、ほんとうに縁の下の力持ちみたいなものですのね。(皮膚と心)」

そう、商品が売れたとしても、ほとんどの人達は「このパッケージをデザインした人は誰だろう?」と思いを巡らせることはないだろう。しかし実際には、世の中に出ている商品のパッケージには「縁の下の力持ち」であるデザイナー達の仕事が隠れている。様々な人たちが、それぞれの仕事をこなし商品を作り上げている。スポットライトが当たるのは一部だけれど、その背後にはたくさんの支える人達が存在するのだ。

「ふざけちゃいけねえ。職人仕事じゃねえか、よ。」と、しんから恥ずかしそうに、眼をパチパチさせて、それから、フンと力なく笑って、悲しそうな顔をなさいました。(皮膚と心)

薬のおかげでだいぶ回復した自分の首をながめながら、そんなことを考えました。


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