読書の記憶 三十八冊目 「城の崎にて 志賀直哉 」

自分の場合、一人旅の計画を立てる時には可能な限りスケジュールをギチギチに詰め込むことが多かった。まずは朝一番で美術館を見て、昼から博物館へ行き、余裕があればこことそこにも寄ろう、と地図を見ながら移動距離と営業時間を考えつつ細かく計画を立てていく。普段の生活で、車で10km移動するとなると「うーん、次回にするか・・・」と面倒になるのだけど、旅先の場合は「20kmか。よし、行こう」と足取りも軽やかに向かってしまう。食事はコンビニで買った缶コーヒーとパンで済ませて、少しでも遠くへひとつでも多くの場所へと移動を繰り返し続けるのだった。

なので、夕方を過ぎるころには体力も気力も限界近くに達してしまい「もう風呂に入って寝よう」とホテルの部屋に戻り、ぐったりぼんやりと過ごすことも少なくなかった。それはどちらかというと「旅を楽しむ」というよりは「計画を実行する」ことを目的とした行為のようだった。「ここに来た。予定のものを見た。次はそこだ」と、事前にイメージした内容を可能な限り多く消化していくことが、自分にとっての「一人旅」だったような気がする。


年齢を重ねて、旅の回数が増えた今では、だいぶ余裕のある計画を立てるようになってきた。それでも予定よりも計画が早く進んだ場合は「今からでも、ここなら行けるかもしれない」と、即座に移動を選択する方を選ぶことが少なくない。これはもはや性格のようなものなので、程度こそ変化したとして根本の部分は変わらないのかもしれない。「城の崎にて」の主人公のように、目の前の事象に目を凝らし静かに思考を深めていくような旅の時間がもてたのなら、もうすこしましな人生を送れたのだろうか。いや、やはり同じような人生を選択しただろうか。ふと、そんなことを考えました。

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