小僧の神様 (志賀直哉)読書の記憶 十二冊目
大学に進学して上京した時の話。
受験勉強から解放された爽快感。一人暮らしで自由な時間を存分に楽しめるという充実感。自分が好きなことを好きなだけやることができるのだ。何がなんだかわからないけれど、とにかく自由だという喜び。それらの気持ちが混ざり合って高揚した気分の中、一人暮らしがスタートしたばかり時の話。
斜め向かいの会社員は、蕎麦らしきものを食べ終えて新聞をめくっている。間違いない。ここは蕎麦屋で、蕎麦を提供してくれる場所である。僕が間違えているわけではない。もしかして店員が、僕に気がついていないのではないか? のんきに数週間前の雑誌を読んでいる場合ではないのではないか? それとも、この店独自のルールでもあるのか?
僕は椅子から少し腰を上げて、あの、というように奥の方にいる店員に呼びかけてみた。その店員は、食券買って、と入口の横の方を見た。僕は彼の視線の先を見た。食券販売機があった。僕はあわてて販売機の方に行って食券を買いカウンターに置いた。会社員は新聞を読んでいた。僕の頭の中にはまた「こんな事は初めてじゃない」の一文が思い浮かんでいた。
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