読書の記憶 二十七冊目 「坊っちやん 夏目漱石」

大学に進んで上京してから半年くらいが過ぎた時だった。地元に帰って知人と話していたところ「なんだか、すごく早口になったね」と、いうようなことを言われた。特に自覚はなかった。しかし、そう言われてみると気になるので、後日他の人に「早口になったか?」と聞いてみた。特に早口だとは言われなかった。

もしかすると、その人の前では早口になってしまっていたのかもしれない。時間があまりなくて、なんとなくせわしない雰囲気になっていたので「早口になった」というような言い方をしてきたのかもしれない。もう少しゆったりと話をしよう、ということを伝えたかったのかもしれない。もうその人と会う機会はなくなってしまったから、本当のところはわからない。


漱石の「坊っちやん」を読んだのは中学一年生の時だった。そしてこれが僕が初めて触れる漱石の作品だった。読み始める前までは「教科書に載っているような日本を代表する偉大な作家」という情報から「難しそう。自分にも理解できるだろうか」という印象だった。特別な「何か」があって、それを理解するには素養のようなものが必要なのではないか、と感じていたのだった。ところが最初の数行を読み始めた途端、その先入観はどこかへ吹き飛んでしまった。リズミカルな文章とスピード感のある展開にぐいぐいと引き込まれた。ほんの数時間で最後まで一気に読んでしまった。

「これが文豪と呼ばれる作家の作品なのか」と思った。どこか遠くの世界に旅して帰ってきたかのような感覚。そして「すごくおもしろい。これならいくらでも読める」と思った。

それから数年後、大学で日本文学を専攻するきっかけは「坊っちやん」を読んだことだったのかもしれない。先日ひさしぶりに「坊っちやん」を読み返した時も一気に最後まで読み終えてしまった。そして、ここに書いたようなことを思い出したのでした。

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