読書の記憶 四十三冊目 「檸檬 梶井基次郎」

予備校生だった時の話。当時は金がなかったから、授業後の楽しみといえば書店を回ることくらいだった。予備校から出発して、まずはここ。次はこちら。そして時間がある時には、ぐるりとあそこまで足を伸ばす。のように、自分の中で「書店めぐり」のルートを作って、律儀に巡回したものだった。

あの頃は、インターネットもないしスマホもないから、情報収集といえばテレビを見るか本を読むくらいしかなかった。なので、そんな風にして書店を回る時間は貴重で重要で、充実した時間だったのだ。書店からすれば迷惑な客だったろう。せいぜい月に1〜2冊程度しか購入しない客を歓迎するような書店が多いとは思えない。「あいつ、また来たよ」とばかりに、はたきで追い払いたい店員もいたかもしれない。
いつの日か「これと、あれと、それと」と、値段を気にせずに本を買って書店に還元できるようになることが夢だったのだが、社会人になっていくばくかのお金を使えるようになると、本以外の楽しみに費やすようになっていた。店舗で購入するのではなく、ネットの通販で購入する回数が増えた。最近では、紙の書籍ではなく電子書籍で購入する割合も増えた。そして気がつくと、当時回っていた書店の多くは閉店してしまっていた。


梶井基次郎の「檸檬」には丸善が登場する。作品を読み終わったあと「そういえば、仙台にも丸善はあるのかな?」と気になって電話帳で(当時は、電話帳で店を探していたのだ)調べてみたところ、ごくたまに足を伸ばして立ち寄る書店が丸善だということを知った。迂闊であった。灯台下暗しとはこのことだ。よし、いつか海外の画集を買う時は、ここにしよう。そう思いながらも画集を買う機会はなく、長い長い時間が過ぎてしまっていた。

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